薬物療法1

強迫性障害という診断がなされた場合、処方されるのはおそらくSSRIというタイプの抗うつ剤抗精神病薬あるいは抗不安薬との組み合わせになると思います。また、回復にはきちんとした睡眠が不可欠なので睡眠導入剤も同時に処方されるでしょう。


SSRI選択的セロトニン再取り込み阻害薬というもので、脳の神経細胞ニューロン)の間(シナプス)で受け渡しが行われているセロトニンという神経伝達物質の流れを回復するための薬です。強迫性障害で強い不安を感じるのはこのセロトニンという物質の受け渡しに障害が起きているからと言われています。抗うつ剤という名前の通りうつに悩む患者さんにも多く処方されている薬です。


詳しくは
wikipedia:SSRI
wikipedia:セロトニン
を見てください。ただしこの薬は即効性がなく、通常三週間から五週間ほど服用を続けないと効果が表れてきません。


日本で認可されているのはデプロメールルボックス)、パキシルパロキセチン)、ジェイゾロフトゾロフト)の三種類になります。このいずれかをある程度の期間服用しもし効果が表れないようなら他のSSRIを試す、という処方が多いようです。


また、SSRIで効果がなかった、あるいは強い副作用が出たということになれば三環系など他のタイプの抗うつ剤が処方されるようです。


SSRIは比較的新しい薬でまだジェネリック後発医薬品)も発売されておらず薬価はやや高くなります。負担することが難しいという方はこのブログ内でも紹介している自立支援医療制度を利用しましょう。


また、抗うつ剤には即効性がないため、抗精神病薬あるいは抗不安薬という即効性のある気持ちを落ち着けるための薬を同時に服用します。抗精神病薬というのはメジャートランキライザーというタイプの安定剤で脳の中で興奮材料となるドーパミンという物質の働きを抑制します。効果は非常に強いです。利用されているものとしてはコントミンリスパダールなどがあります。


抗不安薬マイナートランキライザーというタイプで気持ちを落ち着けるという効果は似ていますが、抗精神病薬に比べると効果は穏やかで副作用も少ないです。利用されているものにはデパス、コンスタンなどがあります。


服用して一、二ヶ月、またその後も定期的に病院で血液検査を受けてください。抗うつ剤精神安定剤には副作用の強いものもあります。私自身もリスパダールを使用していた際に肝機能の状態を表す数値が悪化していることが血液検査で分かったため、一時服用を中断したことがありました。

自立支援医療制度

自立支援医療制度について。


この制度は精神疾患で通院している人の医療費の自己負担を軽減する措置です。私も利用しており、地方自治体によって違いますが、私の住んでいる地域では自己負担がゼロで医療費(もちろん処方される薬も含む)の一切が免除されます。


患者さんの中には働きたくても働けないという人も多いと思いますのでこういう制度は大変助かります。


政治家の方々はこういう社会保障制度を利用するような状況に陥ったことがないから人の痛みやセーフティネットの大切さが理解できないのでしょうね。先日選挙で落選した自民党の先生方にも失業保険ってあるのでしょうか。これは余談です。


申請方法や内容について詳しくは病院に在駐しているソーシャルワーカーの方に聞いてみてください。精神科のある病院ならば精神保健福祉士という方もいらっしゃいます。必要な物は申請書類と医師の診断書ぐらいです。申請先はお住まいの地域の市役所、区役所の社会福祉課などになります。

私の症状

以下は入院時に主治医に渡した、悩んでいる強迫観念を挙げ連ねたリストです。
私自身もこの時病気でひどい状態だったので、文、内容ともにまとまりがありませんが、
原文のままでこちらにコピーしておきます。


ゴミが捨てられない。生ゴミ、紙ゴミ、プラスチック問わず確認しないと捨てられない。
一枚のちり紙ですら表裏何度も見て、電球に透かしてなにもついてないと確認しないと
捨てられない。特に袋が苦手で袋の継ぎ目や、表裏、何度確認しても何か大事なものが
ついている気がして捨てられない。紙ゴミもくしゃっとつかんだり、たたんだりすると
何か間に挟んだ気がして、広げたまま家族に渡さないと捨てられない。


服のポケットにいつの間にかものがはいっていて落ちている気がする。


服の袖や裾や表面に何かいつの間にかついていて落ちた気がする。


洗濯時、着るとき、脱ぐときに服の裏表、ポケット、タグ、縫い目まで何かついてないか
細かく何度も見ないと使えない。靴、靴下も表裏見ないと履けない。外出時はさらに再度
注意深く確認する。ひどい時は服を来て外出するまでに一時間以上かかっていた。


それだけ確認しながら、外出時は何も持っていのに、何か大事なものが落ちた気がして
後ろを振り返って何か落ちてないか何度も確認して行ったり来たりを繰り返して、目に
ついた紙や落ち葉、人のゴミまで拾ってしまう。一番ひどい時は人の捨てたゴミ収集の
大きな袋まで気になって拾った。


行ったり来たりを繰り返すが、行ったり来たりしたことでさらにその時に何か落ちたん
じゃないかと気になって、同じ場所を行き来する。片道徒歩10分程度の道のりを行く
のにも7、8時間かかり、病院で診察を受けて病院を出るまでに4、5時間かかった。


そのため外出は病院と部屋の往復しかできず、一人暮らしをしていた症状のひどい時は
友人にカロリーメイトを買ってきてもらい、それと水道水だけを口にして2ヶ月ほど
カーテンを閉め切り、布団の上から一歩も出られず引きこもっていた。


裸になり、何度も髪やからだをこすって何もついてないか確かめて風呂に入ったのに、
排水溝に何か落としてなかったか、浴槽や桶やシャンプーのボトルに何かついていないか
出られない。ひどい時はお風呂を出るまでに確認行為を30分ほどしてしまった。


トイレも同様で排水溝や便器を隈無くなんども見ないと出られない。


ゴミ箱や洗濯機や流しや排水溝に近づくと何も持っていなくても、いつの間にか
大事なものが服についていて落としたような気になる。そのため、ゴミ箱や洗濯機を
注視してなにも落ちていかないか確認しながらぐるっとよけないと近くを通れない。


何かものに触れただけで手から大事なものが触れた物についた気がして捨てられない。
表裏を確認してしまい、さらに確認しようと触れたことで余計についた気がして
その行為を繰り返してしまう。


人に物を渡すのが怖く、紙一枚渡そうとしても、何か別のものも一緒に渡したん
じゃないかという気がしたり、紙の裏に何か書いてあったんじゃないかと思って
不安になる。袋なども大事な物まで入れてしまったんじゃないかと不安で、
渡した後も気になって何度も相手に確認してしまう。


郵便物を送ることができない。無理矢理送っても相手に何か別の大事なメモなどが
入っていないか、封筒の表裏、のりづけ、切手と封筒の間まで気になって電話を
何度もかけて聞いてしまう。


外出したときもお店の椅子や床や道路に何かを落とした気がして、帰宅してから
お店に片っ端から何度も電話をかけないと安心できない。


部屋を共有したり、家族同士で触れ合ったりするので、妹や母親の衣服や鞄や
その中身にまで何か自分にとって大切な大事なメモが紛れ込んで、外に落として
帰ってきそうな気がするので、何度も妹や母親にメールや電話をしたり、
妹や母親の外出先に何かそういう物が落ちていないか何度も電話してしまう。


バッグのファスナーが閉まっていないと何か落としたという気がする。


他人が自分の近くで本や新聞を読んでいる時ですら、何か自分の大切な物が
ページの間に挟まった気がする。当然自分も本や新聞や広告に触れたり広げたり
読んだりすることができない。


今は誰か見知らぬ人が自分に当てたメモや連絡先やメッセージを書いた小さな紙や
付箋が自分の服や鞄の周りにどこかにひとつだけあるような気がして、上に書いた
行為をくりかえしてしまい、家族に手伝ってもらって日常生活がやっと。


家事は全く行えず、ベッドとダイニングを行き来するだけで、一日中強迫観念が
浮かんできて、不安と恐怖で悲鳴をあげて胸を爪でかきむしり、寝たきりの状態。

行動療法4

このようなことを一日一課題やっていけばいいと思います。そして何度か同じ課題をしてみてもう少し難しい課題もできそうだということになれば、自分の作った不安階層表を見て順次より難易度の高いものへと移って行っていってください。


課題をこなせなかったからといって悲観する必要はないと思います。実際私は今でも強迫行為を完全に我慢することはできませんし、調子がよくなくて以前より状態が悪くなることも思います。三歩進んで二歩下がる、これ名言だと思います。


行動療法をすすめていって途中でつまずいたとき、状態が以前に戻ってしまいそうなときは、もう一度不安階層表を一から見直し、あるいは手直しして難易度の低いところに戻ってやり直すことが重要です。焦らなくて大丈夫です。少しずつやっていきましょう。

行動療法3

行動療法時に強迫行為を我慢する場合は人とおしゃべりして気を紛らわしたり音楽を大音量で聴いたりするのではなく、例えば一人でベッドに静かに横になってあえて不安が高まるような環境に自分をおいたほうがいいそうです。ですが、無理な場合は何か気持ちが他に向くようなことをすることもいいのではないかと個人的には思います。


さて、強迫行為を我慢しながら自分の中での不安や恐怖の度合い、強迫観念の内容を紙に書いてモニターしていきます。


以下が記録用紙となり、儀式日記と銘打たれたテンプレートですが、これは実際に私が行動療法をする際に主治医から頂いたものです。

 




儀式というのは強迫行為のことです。記入する内容については、左から行動療法の課題、行動療法を開始した時間、終了した時間、課題終了直後の不安の大きさ、反応妨害時の不安の大きさ、反応妨害後の不安の大きさの経過です。


暴露反応妨害法では不安の大きさをSUDという数値で表します。SUDはSubjective Units of Discomfortの略で直訳すると主観的に判定した不快さを表す単位、といったところでしょうか。とは言ってもとても簡単なことで自分の中での一番強い不安を100、不安を感じていない状態を0とした場合、今自分の中にある不安はどれくらいの値になるか、と数値化したものです。


大事なことはしっかりと反応妨害を行い、直後、5分後、10分後、30分後、1時間後、2時間後というように時間の経過に伴う不安の大きさの変化を記録することです。


反応妨害後はやはりぐっと不安が高まります。本当に苦しいと思います。ですが、時間の経過とともに不安は必ず下がっていきますのでそれを記録してください。

 

以下は私が実際に行って記入したものです。よろしければ参考にしてください。

 

 

行動療法2

では次に実際に行動療法を行います。行動療法をする際には強迫観念が強くなって苦しい状態にあっても強迫行為を我慢することが一番大事になります。


とは言ってもその強い不安に耐えることはとても難しいと私自身も実感しています。私自身は閉鎖病棟(閉鎖というとおどろおどろしいですが、中は比較的自由で明るい雰囲気です。)に入院して外出が制限されていましたし、二十四時間ナースステーションや病棟内に看護師さんが待機してくれていましたので強迫行為との物理的な遮断の助けになっていただきました。それにも関わらず看護師さんの目を盗んで強迫行為をこっそりしたことが何回でもあります。


それだけ苦しいということは理解できますので、みなさんも身内の方に補助をしてもらうなどした方がいいと思います。強迫行為の我慢には物理的な遮断が一番です。


さて、強迫性障害の行動療法というのは実際には「暴露反応妨害法」というものです。たいそうな名前がついていますが実際には非常にシンプルで、わざと強迫観念の浮かんでくるシチュエーションに自分を晒し(暴露)、苦しくても強迫行為を我慢する(反応妨害)ということです。


前回作成した不安階層表を見てみてください。上から順に強迫行為を我慢するシチュエーションが難しい順に並んでいますね。まず一番下にある難易度の一番低いものから始めましょう。例えばあなたが不潔なものが耐えられないというのならその中でも触れそうだなと思うものからまず触れてみます。またあなたが何度確認をしても不安でならないのなら家のドアの鍵を閉めて部屋から離れてみましょう。


繰り返しますが、ここで不安がわき上がってきてもぐっと我慢してこらえることが大事です。そうでないとこの行動療法には効果がありません。

行動療法01

行動療法は必ず主治医の指示に従い、薬物療法を状態がある程度安定した段階で行ってください。無理に行動療法を行おうとしても余計に悪化してしまう可能性があります。薬物療法については別途記載していきます。

 

行動療法の第一段階は不安階層表の作成です。


まず、あなたが強迫観念にとらわれてしまうシチュエーションとその場でどうしても行ってしまう強迫行為を箇条書きにしてできるだけ多く書いてください。


次にノートの一ページを使ってあなたにとってその強迫行為を行わずに我慢して済ますことが難しい順に(易しい順でも構いませんが)上から並べていってください。


難しい順に並べた場合、一番上が難易度100、一番下が難易度0ということになります。


以下が私が以前に作った不安階層表です。参考にしてみてください。